Near-infrared spatiotemporal color vision in humans


この記事では,以下のMa et al., (2025)の論文について記述する.この論文の図をノート記事に引用することはできないので,要約を文字のみで記述する.そのため,紹介というよりは自分の備忘録に近い. 私は見えないものを可視化する技術について関心があり,どのような達成方法があるだろうかということをよく考える.この論文では,近赤外光を可視光に変換できるコンタクトレンズを開発することで,その目的を達成しており,内容が気になった. ただし,細かな内容は自分の専門知識を超えていて,現状で私はあまり内容をわかっていないことを先に述べておく.ここでのノートとしては,人間の視覚実験について論文に書かれている内容を記述するに留める.



  • Ma, Y., Chen, Y., Wang, S., Chen, Z. H., Zhang, Y., Huang, L., … & Xue, T. (2025). Near-infrared spatiotemporal color vision in humans enabled by upconversion contact lenses. Cell.



赤外光を可視化する手法としては,例えば変換器を内蔵したゴーグルを着用し,受光した光を可視光に変換して観察者に提示することができる.ただ,こうしたデバイスには,追加のエネルギー供給が必要となる問題がある.そうした外部供給なしに赤外光を可視化する方法として,光受容体と結合するアップコンバージョンナノ粒子(pbUCNPs)をマウスの網膜に注入する方法もある.しかし,この侵襲方法を人間にそのまま応用することは難しい.そこでこの研究では,アップコンバージョンナノ粒子を配合したコンタクトレンズを開発し,人間にとっても赤外光を可視化できることを示した.アップコンバージョンとは,長波長の光が吸収されて,その波長よりも低い波長の光が放出される現象を指す.



人間・マウスの行動実験としては,このコンタクトレンズを装着時とそうでない場合の光検出や,時間・空間パターン認識の実験を行っている.基本的な結果の傾向としては,近赤外光(980nm)による情報提示をコンタクトレンズなしでは検出できないが,コンタクトレンズ装着時では弁別できるようになることを示している.そして,コンタクトレンズを着用しても,可視光の弁別感度は変わらない.また,面白い結果としては,近赤外光の検出は,コンタクトレンズ装着時には眼を閉じていても比較的可能であるという点である.この点は,980nmの近赤外光のまぶたの透過率は23.292%と535nmの0.388%と比較して非常に透過しやすいことに起因していると議論している.



具体的に,光検出課題として実施していることは,光あり・なし,もしくは光なし・ありの順で音プローブとともに提示された刺激順序がどちらであったかを回答すること.これを暗い環境下と明るい環境下で,近赤外光条件と可視光条件で行っている.結果,コンタクトレンズありならば,近赤外光の提示順序が弁別可能であるという結果が得られている.時間関連の実験としては,近赤外光のフリッカー融合周波数を測定したところ,可視光刺激の周波数と類似していることを示している.また,近赤外光によって時間的にコードされたパターン(モールス信号のようなパターン)を被験者はコンタクトレンズ着用時に認識できた. 空間パターンについては,コンタクトレンズのみでは近赤外光のパターンを認識できないが,特定のレンズ系を持つウェアラブルシステムを装着することで,形の弁別が可能になることを示している.



さらに,これらの知見を拡張し,多層にアップコンバージョンナノ粒子を配置したコンタクトレンズを設計することで,808, 980, 1532nmの近赤外光を吸収し,540, 450, 650nmの可視光を発光するコンタクトレンズ(tUCL)を作成した.これは,3種の近赤外光で3原色を作ることができていることを意味する.ひとつの実験では,古典的なカラーマッチング実験を実施し,様々な波長を持つ単色光を,近赤外光の混色によって合わせた.実験の結果,コンタクトレンズを着用して得られた等色関数は,コンタクトレンズなしで計測した可視光と非常に類似していた.



以上より,この研究では,近赤外光の非侵襲的な可視化において,アップコンバージョンナノ粒子を用いた装着可能な素材の有用性を示唆している.