この記事では,以下のGoethals et al., (2025)の論文について紹介する.
- Goethals, S., Louboutin, A., Hamlaoui, S., Quetu, T., Virgili, S., Goldin, M. A., … & Marre, O. (2025). Nonlinear spatial integration allows the retina to detect the sign of defocus in natural scenes. Science Advances, 11(32), eadq6320.
視覚系というのは、視覚像の焦点面が網膜の前にあるか後ろにあるかというのを適切に判断することができる。 実際、調節反射では、毛様体筋によって眼球の水晶体の形状を変化させ、焦点面を異動させて網膜上に像の焦点を合わせるが、この反射を達成するには、すばやく現在の像の焦点が前にずれているのか後ろにずれているのかがわからなければならない。 この情報処理は網膜段階で十分に計算されていることが示されているが、どのような特徴に基づくのかが不明であった。
この研究では、眼球光学モデルを用いてマウスの眼の光学系をシミュレートし、そのモデルで自然画像を変換し、焦点ぼけを考慮した網膜画像を計算した。そして、この画像を、解剖して眼球光学系を除いたマウスの網膜に投影し、焦点のぼけが神経節細胞(RGC)の活動に与える影響を記録した。
実験の結果、一部のRGCが網膜の前方と後方に焦点が合った画像の違いを検出できることが明らかになった。 具体的には、ON-OFF lolalの特性を示す細胞、OFF-slowの特性を示す細胞でその傾向が得られた。ON-OFF localというのは、刺激のオンセット・オフセットに対して、急峻で短い応答を示す細胞のことで、OFF-slowというのは、刺激のオフセットに対して強く応答し、この応答が長く続く細胞のこと。これらの細胞においては、画像の種類にかかわらず、奥にフォーカスが合う場合の方が強い応答を示した。
さらに、この検出は、RGCの受容野内で局所的な空間コントラストを計算しているのではないかということを解析によって主張している。眼球光学系の球面収差によって正の焦点ずれと負の焦点ずれでこのコントラストが大きく異なるため検出可能になる。 具体的には、焦点が手前に結ばれるとコントラストが落ちるというのが、ここで言っている手がかり。